アキトの履歴書 28

2009.10.10

 
(駆け出し 5)
 
 あの頃の小木曽製作所の主要生産品は、澤藤電機向けレゾナンスで、関東向け、関西向けと
 
電気の(発電機の)特徴により50∞、60∞用の2種類。
 
 線径のわずかな違いのそれは、毎日1,500ヶ前後の仕上げ数量が、完成品のノルマとされていた。
 
 当時、ウチではクリープ工程に2名、面取り、バフ研磨(注2)に2名、仕上げ・修正に6名と、
 
日発への往復をする1名の計10名程で、1日分の完成数量が確保出来るまで、
 
残業を1、2時間ほどするのが常だった。
 
 特に、ばね定数(じょうすう)の規定がシビアだったので、巻き込み(これは日発で行われた)の度に試作をし
 
生産ロット毎に流すのだが、その都度若干の差が出て、座巻きのピッチの微妙な違いがバラつきの原因となり苦労した。
 
現在のようなNCマシンはもちろん無いので、座巻き部のピッチのバラつきが
 
どうしても仕上げ時に検査で問題となってしまい、毎日が試行錯誤の連続であった。
 
 また、どうしても作業者1人1人のハシ修正には癖があり、その結果に差が出てしまう。
 
たびたび検査で荷重不良となり、これには手を焼いた。
 
 研磨の焼付き除去やバフ研磨と私も鼻の穴を黒くしてやったものだ。
 
その製品も数年後、今度は単価の値下げに苦しむ事になった。
 
 そのために私は工程変更を提案した。
 
ワイヤブラシでの焼付き除去とバフ研磨を省略出来るよう工程順序を変更する、つまり、
 
“ショットピーニング(注3)前に研磨・面取りを行い、ピーニング処理後にクリープ、修正”としたことで
  
その目標は達成出来た。
 
 提案内容を何度も交渉して了承して頂いた事で、加工の負担はその分軽減した。
 
バフ研磨を無しに出来たので鼻の穴は黒くならない、工場内のホコリも無くなった。
 
 人手が少しでも余れば、また次の新しい仕事を入れた。父が旋盤で巻いた品を私が寸法取りで切断し、
 
後工程でフック加工をし引張りばねを完成させる事も始めた。
 
 
(注2)バフ研磨:金属表面をきれいにする加工法。
 
綿布・麻など、柔軟性のある素材で出来たバフに砥粒を付着させ、
 
このバフを高速回転させながら被加工物に押し当てて表面を磨く。
 
 加工バフは軟らかいため研磨面に多少の段差があっても研磨できる。但し、この加工では寸法精度を向上させたり、
 
平坦度を良くするほどの加工量は得られない。
 
 
(注3)ショットピーニング:この処理はばねに小さな鋼球(ショット)を高速度で無数打ちつけることで
 
①表面に圧縮の残留応力を生じる ②表面層に加工硬化を生じる 等により、ばねの耐疲労性が向上する。
 
 但し、ショットピーニングは一種の冷間加工であり、材料の降伏点が低下するため、
 
ばねはヘタリやすい状態になっているので、処理後に低温焼鈍(熱処理)をし、
 
材料の降伏点を回復させる必要がある。
 
 またショットピーニング処理されたばねは、非常にサビやすいため、防錆処理を早くしなければならない。
  
 

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